さとぱん博士です。普段は博士研究員(ポスドク)として研究に明け暮れています。
この記事を読むと、論文0報で奨学金の返還が半額免除された私が、論文0報で奨学金返還免除を受けるのに必要な学会発表件数が分かります。
※この記事の内容は、主に修士課程在学中の学生を対象としています。博士課程では論文0報だと基本的に学位を取得できないので、そもそも修了できないという問題に直面します。
奨学金を受給中の大学院生の中には、

論文ゼロだけど、奨学金の返還が免除されるには何回学会発表すればいいんだろう?
と思っている方もいらっしゃるかと思います。
その答えですが、先に結論を言ってしまうと、必要な発表件数は大学によって異なります。
というのも、返還免除者の選定基準が大学によって異なるからです。
ただ、この回答だけで済ますのも無責任なので、大体の数を言うと、最低5件(うち3件以上が口頭発表)は欲しいところです。
国際学会の口頭発表は必須ではありませんが、あるとより良いです。
ただし、論文0報・学会発表0件でも稀に奨学金返還免除者に選ばれることもあるようなので、どんな業績でも申請すべきだと私は思います。
そもそも奨学金返還免除とは?

奨学金返還免除とは、日本学生支援機構(JASSO)の第一種貸与型奨学金を受給している大学院生を対象とした制度で、正式名称は『特に優れた業績による返還免除』です。
その名の通り、優れた研究業績を残したと認められた学生は奨学金の返還が免除されます。
学部生や第二種奨学金を借りている大学院生は対象外なので、注意が必要です。
基本的には、所属大学院の第一種奨学金受給者の上位3人に1人が受給額の全額もしくは半額分の返還が免除されます。
9人に1人が全額免除、9人に2人が半額免除されます。
これを聞くと、全額免除は難しいけど半額免除はそこまで難しくなさそうと感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか?
この制度の重要なポイントは、
という事です。
通っている大学によりますが、ライバルが学内だけなので割と狙うハードルが低いのかなと思います。
逆に、旧帝大・東工大・一橋大のような超優秀な学生が多い大学だと、半額免除でさえ狙うのがかなり難しいかもしれません。
この制度の名目上の評価項目は以下のようになっています。(JASSO公式サイトより抜粋)
- 学位論文その他の研究論文
- 大学院設置基準第16条に定める特定の課題についての研究の成果
- 大学院設置基準第16条の2に定める試験及び審査の結果
- 著書,データベースその他の著作物(第1号及び第2号に掲げるものを除く。)
- 発明
- 授業科目の成績
- 研究又は教育に係る補助業務の実績
- 音楽,演劇,美術その他芸術の発表会における成績
- スポーツの競技会における成績
- ボランティア活動その他の社会貢献活動の実績
- その他機構が定める業績
多くの学生に関わってくるのは、評価項目1,6,7かと思われます。
項目1は学位論文・学術論文・学会発表が該当します。
学位論文については、修了するためには全員提出する必要があるので、中退等をしない限りは殆どの人が該当する項目になります。
学会発表についても、大学院に進学すると殆どの人が経験するので、該当者が多い項目になります。
項目6は学業成績が該当します。
私の記憶が正しければ、一定以上の成績を取得した人のみが該当する項目ですが、そこまで厳しい基準ではなかったと思うので、大半の人が該当すると思います。
項目7はTAやRAでの活動が該当します。
RAはやったことがない方もいらっしゃるかと思いますが、TAは殆どの大学院生が行ったことがあると思います。
学内選考の基準は大学によって異なる
学内で上位3割を狙えば良いと説明しましたが、選考基準自体も大学によって異なります。
一般的には、業績や研究内容等を記載した書類を提出し、教授会等で返還免除候補者を選定することが多いようです。
しかし、全く異なるシステムで返還免除候補者を選定する大学も存在します。
私が所属する大学の学科が、まさにそのパターンでした。
私の学科では、以下のように返還免除候補者が選定されました。
- 大学院入試の時に筆記試験が免除された学生が申請書を書いてエントリー
- エントリー者のうち6,7人が面接に呼ばれる
- 教授・准教授全員の前で、5分でプレゼン、10分間質疑応答
- 面接上位者1名が全額免除、4名が半額免除、それ以下は何もなし
1の申請書は学内オリジナルでしたが、内容は学振申請書と非常に類似していました。
ちなみに、院試筆記試験免除は内部進学者のみが対象なので、他大学から進学してきた方は残念ながら奨学金返還免除を受けることができないようです。
私の研究業績はどうだったか?
奨学金返還免除候補者の選定基準に関わる私の業績は以下の通りでした。
- 学位論文1報
- 学術論文0報
- 学会発表11件
- 学業成績:履修科目の約8割が秀、残りが優
- TAあり、RAあり
論文について
学位論文は基本的に全員必須なので、あっても特に有利になる事はありません。
学術論文は学内審査の少し前に投稿して、リジェクトされたものが1報ありました。
なので、返還免除申請書には執筆中論文1報という感じに記載したと記憶しています。
たとえ掲載受理された論文がなくても、執筆中のものがあれば記載すべきだと思います。
学会発表件数について
この記事の主題にもなっている、私の学会発表件数の内訳を詳細に説明します。
発表件数はトータルで11件となっていますが、そのうち4件が国際学会、7件が国内学会でした。
また、国内外の全学会発表において、私が登壇者の講演は8件でした。
返還免除候補者の選定において、基本的には自身が登壇者の講演しか評価されません。
しかし、非登壇者の講演も申請書に記載した方が良いです。
しかし、非登壇者の講演もある場合は申請書に記載すべき。
基本的には学会発表には口頭・ポスターの2種類の発表形式がありますが、口頭発表の方が高く評価されます。
私は4件の国際学会での講演を行いましたが、うち2件に登壇し、いずれもポスター発表でした。
他の2件は非登壇者でしたが、いずれも口頭発表(うち1件は招待講演)でした。
国内学会については、7件中6件に登壇し、うち5件が口頭発表でした。
非登壇者の1件は口頭発表(招待講演)でした。
私の学会発表の発表形式を纏めると、以下のような感じです。
国際学会 | 登壇者 | 口頭発表 | 0 |
ポスター発表 | 2 | ||
非登壇者 | 口頭発表 | 2 | |
ポスター発表 | 0 | ||
国内学会 | 登壇者 | 口頭発表 | 5 |
ポスター発表 | 1 | ||
非登壇者 | 口頭発表 | 1 | |
ポスター発表 | 0 |
学業成績について
幸いにも、私は修士課程在学時には全ての履修科目の成績が秀と優でした。
秀は最高評価の5(大学によってはS)、優は4(大学によってはA)に相当します。
約8割の科目の成績評価が秀、約2割が優だったので、GPAに換算すると3.8程度になります。
TA・RAについて
TAは殆どの大学院生が経験するので、あまり高く評価されません。
かと言って、記載が無いより評価されるので、TAを経験した人は申請書に書くべきです。
私は修士1年の秋頃に、TAとして学部生の実験のスタッフを行いました。
期間は大体2ヵ月でした。
RAは経験する人がそこまで多くないので、TAより高く評価されるかと思います。
私の場合は、修士2年次の前期に直属の指導教員がサバティカルだったので、運よくRAとして雇ってもらえました。
※サバティカルとは、大学教員が研究に専念できるよう、数年に一度講義を行わなくても良い期間を設ける制度の事です。
私が所属する大学では、指導教員のサバティカル期間中に学生を1名、RAとして雇えるようです。
RAの仕事としては、小テストの採点補助や学生実験用の教材作成を行いました。
特に後者の業務は、返還免除候補者の選定において、かなり有利に働いたよう感じます。
私はこのような業績で、学内で独自に行われる返還免除候補者の選抜試験において、学科内で2位の成績を残すことができました。
その結果、奨学金の返還が半額免除されました。
下の写真はアイキャッチ画像にもなっていますが、奨学金の返還免除が決定した時に届いた賞状です。

研究論文が0報だったのに、学科内で2位の成績を残すことができたのには、直属の指導教員のサポートも大きかったです。
返還免除者の選抜試験の面接官になっている、教授・准教授に手伝ってもらうのはNGでした。
しかし、私の場合は直属の指導教員が助教だったので、お願いして手伝って頂きました。
(試験後に聞いた話だと、助教のサポートもグレーゾーンとの事でしたがw)
申請書については助教のサポートもNGだったので、自力で書きました。
いずれにせよ、このサポートが無ければ半額免除すら取れたか怪しかったので、私としては大変有難かったです。
教員のサポートがNGという事であれば、研究室の学生にお願いしてサポートしてもらうのが良いと思います。
特に、博士課程まで残っている先輩がいる場合は、非常に心強いです。
返還免除経験者がいる場合は、さらに心強いです。
是非とも、返還免除審査前はルール違反にならない範囲で、研究室の教員や学生の助けを借りるようにしましょう。
私以外の返還免除者の研究業績は?
私が所属する学科の他の奨学金返還免除者の業績は、概ね以下の通りでした。
まず、学科内審査を1位通過して全額免除された方の業績は、
- 学術論文0~1報
- 学会発表件数は不明、噂だと国際学会での口頭発表あり
だったようです。
私は詳細は分かりませんが、他の半額免除者の業績は以下の感じだったようです。
- 学術論文3報(うち主著1報)かつ学会発表10件程度?
- 主著でImpact Factor7.0以上の学術論文1報、学会発表件数はそこまで多くない(らしい)
- 学術論文0報、学会発表10件未満
私は学会内審査2位通過だったので、半額免除者の中では1位だったことになります。
つまり、学術論文0報なのに、3報の方より順位が上でした。
そのため、少なくとも私が所属する大学では、奨学金返還免除者は研究業績だけで決定される訳ではないことが分かります。
指導教員の話によると、
ようです。
勿論、研究業績だけに基づいて返還免除者を決定する大学も多いので、研究業績を充実させることはとても重要です。
研究業績が皆無でも諦めずに申請しよう!
『学術論文が0報』や『学会発表件数が少ない』という理由で、初めから審査にエントリーしない人が時々います。
しかし、これまで述べてきたように、研究業績だけで返還免除者を選定しない大学も存在します。
実際に、私も学術論文0報なのに3報の方よりも学科内審査の準位は上でした。
私が所属する大学では特に言えることかもしれませんが、論文数が奨学金返還免除者選抜試験の学内順位を決める訳ではありません。
学会発表件数も同様、少なければ必ず試験をパスできない訳でもありません。
そのため、どんなに酷い研究業績でも奨学金返還免除者の選抜試験にエントリーすべきだと私は思います。
余談ですが、極稀に学術論文ゼロ・学会発表ゼロでも学振に通る人もいるようです。
なので、学振よりハードルが低い奨学金返還免除を『研究業績が酷い』という理由で諦めるべきではないと思います。
まとめ
最後に、この記事の要点を纏めます。
奨学金返還免除とは、JASSOの第一種奨学金を受給している大学院生のうち、優れた研究業績を残したと認められた学生は奨学金の返還が免除される制度の事でした。
この制度の重要なポイントとして、
- 全国ではなく学内で上位3割に入れば良い
- 選考基準は大学によって大きく異なる
といったことが挙げられます。
学内で上位3割に入れば良いので、旧帝大等のハイレベルの大学でない限りは、学術論文0報でも半額免除であれば十分狙えます。
また、大学によって選考基準が異なるので、大学によっては研究業績以外の要素が重視される可能性もあります。
そのため、仮に業績皆無だったとしても申請した方が良いと思います。
論文0報で返還免除者に選ばれるために必要な学会発表件数は一概には言えませんが、最低でも5件(口頭発表3件以上)はあった方が良いでしょう。
TAやRAも評価対象なので、積極的に行うことをオススメします。
私も学術論文0報で半額返還免除されましたが、共著を含めると学会発表件数は11件(登壇したのは8件)に上ります。
この業績でも、学術論文3報、学会発表10件程度の方よりも学内審査で上位に選ばれました。
なので、口を酸っぱくして言いますが、たとえ論文0報・学会発表0件だったとしても、奨学金返還免除の学内審査にエントリーすることを強く勧めます。
また、エントリーの際には、可能な限り所属研究室の教員や学生の力を借りることをオススメします。
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